ここではない、どこかへ かぐや姫の物語
画面に映し出されるアニメーションは、
確かに、百年後も残るであろう素晴らしい質感を表現していた。
内容について、引っかかる点があったので、それを記す。
上川隆也演じる求婚者は、姫を「ここではない、どこかへ」連れていけると主張する。
最近、宮台真司の以下の記事を読んでいたので、この言葉が引っかかった。
http://www.miyadai.com/index.php?itemid=1015
ここではない、どこかへを求めることはより本質的なものへの希求だ。
この求婚者の訴えを聞いた姫は、苦しむ。
ここにいたいが、求婚者達に求められる現状からは去りたいというジレンマに泣く。
ここからは、立場の話になる。
ここではない、どこかがあると仮定し、それを求める立場。
ここではない、どこかなどなく、どこまで行っても、ここしかないのだから、
ここで生きていくことに喜びを見出そうとする立場だ。
物語に戻り、かぐや姫はどうだったか、
都に移っても、庭に育った山を模した風景を作った。
姫にとって、こことはこの山と翁と媼、そして捨丸だろう。
またこれらは、月にいた時に求めた、ここではない、どこかでもある。
姫は最後まで内在的であった。
姫の山の自然を愛する姿は誠に美しかった。
ずっとそこで暮らしたかったのだろう。
しかし、翁は都に出て高貴な男と結婚することが姫の幸せになると信じるようになってしまう。
そのことは十分姫も知っていたので、翁の希望は叶えたいが、
今の暮らしも捨てたくないという、葛藤を抱えるようになる。
最終的に帝に触れられることによって、
月に帰りたいと思ってしまい、それが月に届き迎えが来ることになってします。
ここにいることを最も愛した姫が、どこかへ連れて行かれてしまう悲哀がこの作品の最後を締めくくる。